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藤井靖史(CODE for AIZU)氏 Photo by Toshiya Kondo @civictech forum(CC-BY)

「コミュニティって作るものではなく、エネルギーの流れから浮かび上がってくるものだと思うんです。」

こう語るのはCODE for AIZUの藤井さんです。「おもしろい人、すごい人は地方にこそいる!」っと、いろんな人から聞きますが、私にとって藤井さんはその1人でした。正直なところ変態ですw(もちろんいい意味で)。前編「ITとローカルコミュニティとは融合する?!」ではCODE for AIZUのローカルコミュニティとの交わり方についてレポートしましたが、後編は藤井さん独自のコミュニティ論を、会津での活動と照らし合わせながら紹介したいと思います。

シビックテック活動をいろいろと取材する中で、「コミュニティが大切」という言葉をよく聞きます。そして「いいコミュニティってどうやったら作れるのか?」という言葉を聞くこともあり、その言葉にちょっとした違和感を持っていました。

コミュニティという言葉の意味は社会の流れに応じて変化しています。自治会などに代表されるような地縁型のコミュニティからはじまり、NPOに代表されるようなテーマ型のコミュニティが阪神淡路大震災を契機に多く発生しました。そして今、ITが発達するに従い、オンラインコミュニティなども発生し、マーケティング手法の一つとして表現されることもあります。
IT界隈で「コミュニティ」という言葉を使うと、どうしてもオンラインコミュニティをイメージし、マーケティング手法的なイメージをしている人が多いと感じています。だからこそ顧客の囲い込み的な意味合いで「コミュニティを作る」という言葉がでてきているのかな?っと。

ただ、シビックテック活動における「コミュニティ」は、マーケティング手法的な意味ではないと思うので、無理に作るのは違和感があり、個人的には作るというよりも自然にできるもので、コミュニティ活動は「活動のサポートする。きっかけをつくる。」というスタンスがとてもしっくりきます。今回の藤井さんの考え方、活動を聞いて、そんな思いがさらに強くなりました。

藤井さんの考え方が唯一の正解というわけではないですが、一つの考え方として、コミュニティに興味がある方は知っておいて損はないと思っているのでご紹介したいと思います。

物事は3つに分けると理解しやすい

継続されるコミュニティの話に入る前に、まず、物事を理解する際のコツについて伝授してくださいました。そのことは、様々な活動をしていく中で物事がうまくいかなかった時に、何故うまくいかなかったのか?何がよくなかったのか?が自分の中でハラオチし、PDCAサイクルを回す際に役に立つそうです。

一番最初にベクトル(方向)について考えるきっかけとなったのは、アップルの創始者スティーブウォズニアックの「Happiness=3F(Food、Friends、Fun)」という言葉とのこと。 人生の目的は幸福であり、それは食べ物、友達、楽しみが揃ったところにある。というものです。

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3軸表現例
藤井氏:世の中がこうなっているからなのか、人間がそう分けやすいからなのか、なぜか3つに分けたがるようです。この3つのベクトルに分けるという考え方は、実は中学校でも習っているんです。
 ・フレミングの法則:「電流」「磁力」「力」
 ・三権分立:「行政」「司法」「立法」
これらが共通しているのは
 ・流れ:電流、人間は食べ物(Food)の流れる道、日々の国の流れをつくっている行政
 ・相対関係:NとS、あなた(Friends)がいて私がいる、法に基づいて白黒をつける司法
 ・意志(思い):電流と磁界から発生する力、楽しみ(Fun)、国民の意志が文面化する立法
といった 流れ、相対関係、意志 の三つに分かれていると感じています。

これを、会津の活動に置き換えてみました。
 ・行政のデータをオープンにという流れがあり、自分たちの得意なことで街をよくしたいという意志もあるけど、地域の人(相対関係)と一緒にできていなかった。
 ・技術を勉強する場があり技術は身についた(流れ)。ものづくりをしたいという思い(意思)もある。でも、世の中のニーズがわからない(相対関係)。

立体的な世界で物事を前に進めようとする際にはこの3軸を考えるべきで、うまくいかない時はこのバランスがだいたい欠けているとのことでした。


継続されるコミュニティは、流れが先で構造が後からできたもの

続いてお話いただいたのは散逸構造論について。藤井さんは会社ができるとか、組織ができるとか、コミュニティができるとか、そういった「構造が生まれるとき」にいつも散逸構造論を念頭においているそうです。
散逸構造論とは、簡単に言うと「混沌(無秩序)から秩序が生まれる」という理論です。何億個もの粒子が無秩序にあるという混沌としている中で、無秩序に動いているからこそ、そのうちの何個かが、たまたまある秩序を作ってしまう可能性があるというもの。一見逆説的なこの理論は、相対性理論、量子論以来の最重要科学的発見といわれています。

む、難しいですよね…。
なので、世の中に構造が生まれる瞬間の例として「お味噌汁」の説明をしてくださいました。
藤井氏:味噌汁って温かいと表面に模様(構造)ができますが、冷めると味噌とダシが分離するじゃないですか。(空気に触れている)熱が冷めていく部分と、お椀によって熱が逃げない部分がある時、お椀の中に対流が起こり模様(構造)が生まれます。温度差があると対流は常に起こっていますが、温度差がなくなると対流がなくなり構造が失われます。

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 左:模様(構造)が出来る様子  /  右:構造が失われる様子

続いて、その話を踏まえ
藤井氏:コミュニティも味噌汁と一緒で、エネルギー(熱量)があると対流が起こり、自然に構造がうまれる。一方、エネルギーがなくなると構造は消滅する。
コミュニティって作るものではなく、エネルギーの流れから浮かび上がってくるものだと思うんです。そしてエネルギーがなくなると消えてしまう。消えてしまうコミュニティなら、無理して続けることもないと思います。
ただ、コミュニティが無くなっても 「知り合いになったこと」「一緒に何かをつくったこと」は消えません。それらが、新たな対流(熱量)をつくるキッカケになるとも思います。

コミュニティは作るものではなく浮かび上がってくるもの、そして消えてしまうコミュニティは無理して続ける必要はないという部分は私も同感です。

そして、継続されるコミュニティについて散逸構造論を踏まえ、説明してくださいました。
藤井氏:継続されるコミュニティは "流れが先で構造が後" この法則です。
例えば、箱モノと言われるものは構造が先なので流れをつくるのが大変です。また、誰かのモチベーションを外から与え続けるのが大変なことと同じです。
継続されるコミュニティを考えたとき、周りの流れをよく観察し、どこに構造が浮かび上がるのか感じることが大事だと思っています。世の中に温度差はたくさんあるので、その中から見つける。例えば、Code for の活動に関しては、まさしく現代にある温度差(単なる消費者からの脱却、右肩上がりを基本としない社会構造)を感じています。そこに構造は生まれることでしょう。

ここでいう「流れ」とは、はじめに説明した3軸(流れ|相対関係|意志)のベクトルのバランスのことをさしています。

箱モノのように、立派な建物をたてることからはじめてしまうのは、まさに構造が先で流れをつくるパターンですね。このパターンで作られた建物は、利用されない事が多い気がします。つまり、構造から入って流れを作るパターンは継続(流れを作ること)が大変ということです。助成金申請が通ったり、予算化が出来たから何かをしなければ!というのも構造(システム)から入る一つの例かもしれません。


周りを観察して、熱量に寄り添う

そんな考えの中で藤井さんがコミュニティに対してどのような姿勢で接しているのか具体的に聞いてみました。
散逸構造論的に生まれた組織、つまり、ある熱量から生まれた小さな秩序(組織)は作れるもの(仕掛けるもの)ではありません。だからこそ、みつけるために周りをよく観察することが大切とのこと。そして、熱量を見つけたらそっと寄り添うそうです。熱量に寄り添う例として、OpenAppLabについてお話いただきました。 OpenAppLabとは「学生や市民がアプリ開発を学ぶ場」です。
藤井氏:会津大学には、コンピュータ好きが入学してきます。つまり、何か作りたいって思って入学している人が多いんです。
いままでは、入学時が「何かを作りたい」という想いが一番強く、人によっては4年間のうちにその熱意が失われてきました。しかし、「何かを作ってみたい」というエネルギーを持っているうちにものづくりに触れ、社会にコミットしたり,ユーザと話す機会を設けると、その熱量が構造化されやすくなります。
「何かを作ってみたい」を大切にするため、課題などは特に与えません。やっていることは機会の提供と内発的な動機付です。例えば、みんなで一緒にものづくり(ex.合宿)をしたり、賞への応募を促して〆切を作ったりなどです。
賞をとったり、評価をされる機会は非常に大事です。合宿では、期間中での出来上がりの目標を決めさせて進捗をシェアしたりしますが、それは締切に命が宿るからです。ものづくりは孤独だし、そういった動機付けはやっています。
熱量が構造を生み出すために寄り添うのです。

OpenAppLabにくる学生は、みな自主的にきているそうです。
学ぶ場があったとしても、単位を取るため半強制的に参加したり、就職活動で有利だから参加したりする学生が多い中、なぜ会津の学生はそんなにモチベーションが高いのか?っと疑問におもっていたのですが、会津大学の特性だけでなく、このように熱量に寄り添うサポートがあってのことだったのだと納得しました。
(※「会津大学の特性」については前編「ITとローカルコミュニティは融合する!?」の蛇足を参照ください。)


自己組織化されていくために

そして、小さな秩序(コミュニティの種)を見つけたらどうしているのか?藤井さんに伺ったところ、以下のような回答をいただきました。
藤井氏:小さな秩序との関わり方については、流れを知るためには雑談や話をしたり、文化的な背景の理解を心がけています。相対関係を築くためには、そこに関わり、相手と自分の境界を知ることを。そして常に自分がしたいかどうか?の意志を考えています。最後は、許容以上の役割が割り当てられたりしていないか?バランスを欠いていないか?いきなり構造をつくるところから初めていないか?等を考えます。

最初に説明いただいた3軸(流れ|相対関係|意志)を大切に考えられているのがわかりますね。
続いて大きな秩序と小さな秩序との連携についても教えていただきました。
藤井氏:現在、「東北復興、復興予算に対する価値提供」という大きな秩序もあり、その関わり方は2つあります。
1つ目は、投資に対する価値提供で、消費者からの脱却としてのCODE for AIZU。
2つ目は地域発の刺激ある事業創出としてのOpenAppLabです。大きい秩序の中で、小さな秩序をどう連携させていくか。それは、小さくても継続していくことで、その熱量は対流し構造が生まれると確信しています。

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散逸構造論では、全体の中で自然偶発的に小さな秩序ができても、ほとんどの場合は全体に影響を与えず、なくなっていくそうです。ただ、小さな秩序は無視できるような小さな影響しかもたないですが、それでもまわりの粒子に少しだけ影響を与えていきます。そして、またその周りの粒子に影響を与え…と連鎖的に影響が伝わっていくと渦巻きを起こすことがあるそうです。つまり、小さな秩序が全体に影響を与えることもあるということです。
たまに条件が合うと、その渦巻きによって全体が強化されていくことがあり、それはポジティブフィードバック(好循環)による自己組織化と呼ばれているそうです。(ここは自分で勉強しました)

会津はその好循環が生まれているような気がしています。

地域の方々の問題意識が表面化されても、それを解決するテクノロジーを持つ人材が少なければ、問題は解決されません。一方で、何かを作りたい、そして作れる人が沢山いるだけでもだめです。片方があるだけでは結果はだせず、両輪がまわってはじめて地域の問題が解決されます。
会津で "作りたい" という個人の思いがあった時、技術がなくて作れない時には「OpenAppLab」が、ニーズがわからなくて作れない時には「オープンカフェ会津」という場があります。「オープンカフェ会津」とは、地域の人を講師に招き、様々なテーマの問題について話し合う場で、CODE for AIZUの活動の1つです。
「OpenAppLab」と「オープンカフェ会津」は別のところから生まれた秩序ですが、それがうまく影響を与え合い、渦巻きとなり、全体が強化されているように思います。

また、こんな嬉しい要望もでてきたそうです。
藤井氏:散逸構造論的なコミュニティを目指し、およそ2年が経ち、ようやくまわってきた気がします。最近オープンカフェ会津をやりたいという要望などを各所からいただくようになりました。OpenAppLabも、メンバーがセンサーに詳しい講師を連れてきたりなど、勝手に回ってきはじめました。

「流れが先で構造が後だと継続性が高い」というのはコミュニティにおける話だけではないですが、会津のコミュニティ事例に置き換えてお話していただいてとてもしっくりときました。
構造が先だと、流れをつくるために外発的動機付けが必要になり息切れしてしまいます。でも流れが先だと、「OpenAppLab」のようにちょっとしたサポートで内発的動機付けが維持されたり、「OpenAppLab」と「オープンカフェ会津」の関係のように影響し合う流れができると、みんなが自発的に動いてくれるようになり息切れはしません。つまり、継続されます。
(※「OpenAppLab」と「オープンカフェ会津」については前編「ITとローカルコミュニティは融合する!?」を参照ください。)

今回ご紹介した会津の事例は、歴史的な流れなどの熱量があった「会津」ならではのやり方です。他の地域の方がそのまま真似することができるわけではありません。
ただ、藤井さんの考え方に関しては会津特有ではないため、それを知っていただくことで各地域で頑張っている方たちの何かの役に立てばと思います。



━ 蛇足:めんどくさいこというよ! ━━━━━━━

前編「ITとローカルコミュニティは融合する!?」では活動事例を中心に、後編では藤井さんの考え方を中心に紹介しました。
ネットで流れている情報は主に「事例」中心かと思います。流れを理解しない中で「事例」だけを真似ると、失敗が多い気がしています。それは、表面だけを理解し、なぜその事例が成功したのか?の本質を理解しないで、自分たちの活動に適用するからではないでしょうか?そう思うからこそ、私は事例だけを紹介するのではなく、活動している人の「考え」や「背景」も含め取材していきたいと思っています。

普通のビジネスと違い、地域活動はその場その場の背景が強く影響していると、取材の中で感じています。ビジネスの価値観は「お金」という標準化されたものなので、真似して成功はしやすい。一方で地域活動の価値観は、その土地で暮らす人達の幸せであり、その土地それぞれによってやり方は違うと思っています。

ちなみに、記事中にある味噌汁は私ではなく藤井さん作。お椀は会津塗とのことです。

※この記事はTheWaveの記事をCivicWaveのほうで編集して掲載しています。